桜乃争奪戦・後編
「おい、どうすんだよ、こんなガキまで連れて来て」
「仕方ねぇだろ? 顔見られちまったから、取り敢えず持って来たんだ・・・けどまぁ、ここまで来たら帰すワケにもいかねぇだろ・・・今すぐにやるか?」
「待てよ、下手にやったら証拠が残るだろ?・・・取引が終わった後にでも処分しよう。丁度ここは海に近いし、石でも付けて投げ込みゃあ、アシもつかねぇよ・・・」
幸村達が倉庫を発見し、ついでに青学のお騒がせ一年を確保していた一方で、その倉庫の一室ではそんな物騒な会話が繰り広げられていた。
見た目は非常に若い・・・二十代の男達と思われる六人が、一室でたむろしている。
車に乗っていたのは確かに二人だったが、ここにいるのは六人。
他の四人は別の手段でここに来ていたらしいが、無論、それはまだ幸村達の知るところではなかった。
或る者は煙草を咥え、或る者は目の前の鞄の中に詰められた白い薬の山を、薄笑いをして眺めている。
いかにも不健康そうな男達だが、それはどうやら見た目だけではないらしい。
「あっちのグループにはもう連絡がついてんだろ? 午後三時って言うと、もうすぐだ。こんだけあれば、結構ぼったくれるだろう」
「危ない橋渡ってんだ、トーゼンの報酬だよ」
性格も不健康極まりない男達だったが、その部屋の中で、一人、彼らと明らかにそぐわない存在もいた。
竜崎桜乃だ。
後ろ手に縛られ、部屋の奥に転がされている少女は、まだ気を失っている様子だった。
しかし、彼らの会話の内容を考えると、失っていた方が幸せだっただろう。
そんな彼らの部屋には、一枚の固く閉じられた鉄製の扉と、小さな、海が見える窓しか外界への通路は存在していない。
窓は人一人も通れない程に小さく、かろうじて外の空き地と海が見渡せる程度で、一階でありながらも、そこを割っても外への脱出は望めない。
『・・・・・・』
その窓の縁から、部屋の中をこそりと覗き込む一人の人影・・・丸井だった。
きょろっと部屋の中を覗き込み、男達に気付かれないように人数を確認し、最後に桜乃の姿を見て瞳を大きく見開いた彼は、すぅっと壁の向こうに動いて窓から一切の気配を消した。
そしてたーっと静かに倉庫の壁に沿って走り、元の入り口近くまで戻ってくると、待機していた仲間達と合流した。
「いた! おさげちゃん、気を失ってるみたいだけど無事だった! 全員で六人いるよい!」
「六人?」
「ああ!」
「ふむ・・・車内には二人とあったが・・・少々厄介だな、作戦に手直しが必要だ」
柳が報告を受け、倉庫の壁に貼られたプラボードを見上げた。
それには倉庫の中の見取り図が描かれており、所々は錆びて隠れていたものの、十分にその用を為している。
倉庫の中は殆どは広場の様な空間が占めているが、奥の一角に幾つかの部屋があるらしい、きっと密閉性が必要とされていたか、或いは重要で高価な物が保管されていた場所だろう。
その内の一室が、敵の根城だ。
他の部屋には窓というものが無いらしく、扉を閉めれば真っ暗闇になってしまう事から、あの部屋が選ばれたのは至極当然の結果とも言えた。
「・・・普通は数人を見張りにつけるものだが、そんな様子は一切見えない・・・余程見つかっていないという自信があるのか?」
「近年稀に見るバカじゃの。車もナンバープレートぐらいフツー外しとくもんじゃ」
中学生の自分達にあっさりこうして見つかっているなど、恥の極みだ・・・と見つけた側が呆れている間に、柳の頭脳の中で幾通りものパターンが計算されていき、最終的に彼はこくんと頷いた。
「銃らしいものは持ってはいないということだったが、安心は出来ない・・・先ずは一人程おびき出して、データを得よう」
取引の時間を間近に控えた謎の男達の耳に、異様な音が聞こえてきたのはそれから間もなくだった。
ガシャ――――――ン!
「ん?」
「何だあの音は・・・」
聞こえてきた耳障りな音は、何かの金属が叩かれた様なそれだった。
しかも、場所が酷く近い。
「誰かいるのか!?」
まずいぞ、どうする・・・と話している間に、もう一度同じ金属音が響く。
焦った男達の一人が僅かに扉を開けて、倉庫の入り口を覗き見ると、逆光だが一人の人影が見えた。
全身ではない、半分しかシャッターは開けられておらず、足しか見えなかったが、確かに二本のそれが向こうでうろうろと動いていたから、判別出来たのだ。
警察とか、自分達に明らかに不利益な人物ではないように見えるが・・・
「何か、変な奴がうろついてる・・・」
「おい、人がいたらアイツラも警戒して来ねぇぞ? どうすんだよ、取引がパーになったら・・・」
「いや、一人だし、小せぇ・・・子供ならちょっと脅してやれば大丈夫だろ。行って来る」
折角の取引が一度潰れたら、今日入る筈だった大金がおじゃんになる。
この商品を手に入れるのに、どれだけ苦労したか・・・諦めるなど真っ平ゴメンだ!
明らかに悪事を働いている人間に最も求められるのは慎重性であるにも関わらず、彼らの誰一人、取引の延期を訴える人物はいなかった。
目の前の金がただ欲しい、出来れば早く苦労もせずに・・・そんな浅はかな集団では、そんな気の利いた案一つ、浮かばなかったのだ。
それが、彼らの誤算の始まりでもあった。
「あ? 何だお前・・・」
一人が扉から出てきて、シャッターへと近づきそれをくぐると、眩しい日光の下に立っていた一人の少年を見つける事が出来た。
白い帽子にテニスウェア・・・もし彼が桜乃をさらった内の一人であれば、何かの繋がりを感じることが出来たかもしれなかったのだが、生憎、その望みは絶たれた。
別ルートで合流した組の方だった男は、越前を見ても、近所の子供ぐらいにしか考えなかったのだ。
「おいガキ、何してんだよ! うるせえんだよ!!」
脅せばすぐにいなくなる・・・と考えていた白い帽子の少年は、男のその言葉を聞いても少しも怯まず、手にしていたラケットを下ろし、向かってきたボールを器用にそれで受け止めた。
「・・・壁打ち」
「はぁ?」
「ここ、いい練習場になるから」
少年は、帽子の下から生意気そうな視線を男に向け、続いてシャッターをラケットで指した。
どうやら今まで聞こえていたのは、少年がシャッターを相手に壁打ちをしていたものらしい。
壁ではなく、わざわざシャッター・・・
男は、イラッとした。
向こうがこちらの状況を知る筈がないし、合わせる義務がないのは当然の話なのだが、それでも彼の様な人間はいる。
自分の思い通りにならないと勝手に立腹し、しかも全ての責任を他人に押し付ける、一番厄介で迷惑な存在だ。
「おい、ここは今日は立ち入り禁止だ。とっとと消えな、邪魔なんだよ」
「・・・友達がいないんだけど、見なかった?」
少年はこちらの話に耳を貸す気配も無く、一方的に質問をぶつけてきて、それが更に男の苛立ちを増幅させた。
本当に、少し痛い目に遭わせてやるか・・・それとも、あの小娘と一緒に始末しちまっても同じか。
「お前、人のハナシを聞いてねぇの?」
彼の言葉に荒々しい感情が宿り、その身体が少年へと一歩近づいたのを合図に、相手は顔を上げて帽子の下の瞳を楽しそうに揺らした。
「おさげの子、なんだけどさ」
「なに・・・?」
男の脳裏にさらった少女の姿が一瞬浮かび、それはそのまま男の動揺と焦燥に繋がり、最終的に隙を生む形となった。
そう、シャッターの影に既に潜んでいた、もう一人の存在に突かれるには十分な・・・
「隙ありっ!」
びしっ!!と鋭い一閃で、背後からラケットの縁で首を打たれ、哀れ男は声も無く倒れてしまう。
「ふん、気配も読めんとは未熟者が」
「アンタがバケモノなだけッスよ・・・」
囮になった越前と一撃を食らわせた真田が、そのままずるずると男を引きずって倉庫の陰へと移動し、他の男達と合流する。
「連れて来た」
「よーし、良心は痛むけど洗いざらい吐いてもらおう!」
痛むと言っていながら、切原の顔は満面の笑みで称えられている。
最早、この状況を見る限りでは、どちらが悪役か分からない・・・
「時間は貴重だ。なるべく早めに頼む」
「おう」
越前の前で、柳の指示を受けたジャッカルや切原達が男を更に引きずって更に奥へと移動していくと、程なく向こうから不審な物音がどたばたと聞こえてきた・・・妙に鬼気迫る声と一緒に。
『てめぇよくもウチのモンさらってくれたなぁ!!』
『下手に隠し立てしたらコンクリのおくく履かせて東京湾ぞコラァ!!』
『イマドキの未成年ナメんなよ―――いっ!!』
『ぎゃああああああああ―――――――っ!!!』
「・・・・・・・・・・・・」
何が起こっているのか、何となく分かりはするが、分かりたくない・・・と思いつつ、越前は敢えて視線を逸らし、そこで何事もない様に間取りの図を見上げながら話し合っている立海首脳陣へと目を向けた。
「あの・・・あの人達ってさ・・・」
「うん、あれでもちゃんと加減はしてるから大丈夫」
幸村は最早視線すら寄越さず、笑みさえ浮かべている。
まるであれが、彼らの楽しいじゃれあいであると言うかの様に。
(立海って・・・)
こんな人達に悪逆非道なんて言われたくない・・・と思っていたところで、再び消えていた立海メンバーが、すっきり爽やかな顔で戻って来た。
「柳〜、銃の類は持ってないらしいぜ」
「なんか、三時から合成麻薬の取引でここが使われる予定だって」
「一応アイツは裸にひん剥いて、ふんじばって転がしといたけどよい」
「ご苦労様でした、で、どうします? 柳参謀」
「あと五人か・・・もう少し誘い出して人数を削りたいところだな。上手く騙してこちらに何人か誘えば、俺達でも何とかなるだろう・・・」
「騙して・・・か・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
一語句に反応して皆が視線を向けたのは、言うまでも無く『コート上の詐欺師』だった。
全員の視線を一身に受けても詐欺師は別に嫌がる様子もなく、やむをえんか、と余裕の笑みを浮かべてみせる。
「・・・はぁ、分かった分かった、やればいいんじゃろ? 全く、これでまた品行方正で知られた俺の名が泣くぜよ」
「いや、その場合、泣くのは品行方正って名前そのものだろ」
冷静な突っ込みをジャッカルがしている向こうで、仁王は先程の男からむしりとった服の内、コートを羽織って立ち上がった。
「・・・ま、素人相手なら俺の敵じゃなかろ・・・ついでに頂きたいモンもあるしのう」
「おい、遅いなアイツ」
「何やってんだよ・・・」
そんな仲間の悲劇は露知らず、部屋の中の五人が苛立ちを募らせていたところに、
『オ―――――イ! 悪い、ちょっと二人ぐらい手ぇ貸してくれよ!』
と、扉の外から男性の呼び声が聞こえてきた。
「・・・?」
『ガキが車にイタズラしてやがったんだ! 念の為にちょっと見てくれねぇか!?』
扉を通してもよく響く声が、明らかに自分達へと向けられているものだと分かった五人は、互いに顔を見合わせた。
「アイツか・・・?」
「だろうよ、何だ、さっきの音はガキの仕業だったのか?」
扉越しではあるが、確かにあの声は仲間のもので、他に覚えもない。
しかし、車にイタズラとはどういう意味だろうか?
「ちっ、車に何かあれば厄介だからな。ここ辺りじゃ新しいのを拝借するのも難しそうだし、ちょっと見て来い」
どうやらあの車の正規の所有者も彼らの中にはいないらしく、乾の予想は見事に当たっていた。
部屋の奥にいた茶髪の男が、車の鍵と思しき物を扉近くにいた一人に投げて渡すと、彼ともう一人、近くにいた男が、面倒臭そうに動いて扉の向こうへと出て行った。
彼らの頭の中では、二人が車の確認をした後に、先に出て行ったあの声の持ち主と一緒に戻って来ることになっていた・・・そうでなければならなかったのだが、それを阻む存在は既にすぐ傍まで忍び寄っていたのだ。
「おい、車がどうなったって?」
『あー悪い、ちょっとボンネットの中を覗いてたバカがいやがったんだよ! 多分大丈夫だと思うけどよぉ、一回エンジンかけてみてくれよ。あと、悪いんだけど中から発炎筒でも持って来てくれねぇ?』
声の主はシャッターの外で待っているのかと思いきや、倉庫の暗がりの中、がちゃがちゃと隅の方で何かを探し回っていた。
暗くてよく見えなかったが、確かに見えるコートは仲間のものだ。
『一応、念の為に工具探してんだけど、電気が来てねぇから暗くてよぉ・・・あーっムカつく!! もう二、三発殴っときゃよかったぜあのクソガキ!!』
暗がりの中での作業に苛々とした口調で愚痴る相手に、二人はにやにやと笑みを浮かべて言い返した。
「おいおい、ちょっとやり過ぎじゃねぇか? そりゃあ」
『ああ!? 何でだよ、どうせ貰うモン貰ったらトンズラするだけだろ? ナニをガキに遠慮する必要があるよ』
「へっ、そりゃあそうだけどな・・・じゃあ待ってろ、すぐ持って来てやるからよ」
二人は暗闇の仲間を残して取り敢えず車に移動すると、鍵を開けて中に乗り込み、エンジンをかける・・・が・・・
「お、おい・・・?」
「何だよ、かからねぇじゃんか!?」
何度繰り返して鍵を回してみてもエンジンが一向にかかる気配はなく、不機嫌な音を上げるばかりだった。
「くそっ! そのふざけたガキがやりやがったな!?」
「どうする!?」
「しょうがねぇ、直せるならやってみよう」
あの仲間を手伝い、工具を見つけるしかないと判断した運転席の男は、ダッシュボードを開けて中をあさり、発炎筒を取り出して助手席の仲間に押し付けた。
「これ持ってけ、道具見つけたらすぐに持って来いよ!」
受け取った方は助手席から降りると、シャッターを再びくぐってあの例の仲間の所へと走っていった。
「おい、持ってきたぞ!」
「ああ、すまねぇな・・・」
腰程の高さがある木箱の中に頭を突っ込み工具を探していた男が、発炎筒を後ろ手に受け取ると同時に、ぐいっと上体を起こして姿勢を正す。
しかし、その頭は見覚えの無い銀色に彩られていた。
「え・・・?」
一瞬、何が起こっているのか理解出来なかった男に、銀髪の若者は笑いながら振り向き、今度は違う声でねぎらった・・・全く知らない顔で。
「ご苦労さん」
がすっ!!
「っ!!」
その言葉の直後に痛烈な感謝の一撃を発炎筒で浴びせ、仁王は倒れる男を侮蔑の瞳で眺めていた。
意識を失った相手が動かないのを確認し、シャッターの外へと足を向けると・・・
「おーう、早かったのう」
車の中に残っていたもう一人の男もそこから引きずり出され、柳に腕を掴まれる形で身体を地面に投げ出し、完全にのびていた。
「威勢がいい割にはあっけなかったな・・・まぁ有り難い事だが。仁王、発炎筒は?」
「ここじゃよ。流石の俺も準備もなしで車の鍵までは開けられん。精進せんとな」
(ナニを精進するつもりなんだろう・・・)
彼らの会話を、あからさまに不審そうな目を向けて聞いていた越前は、思い出した様に仁王に質問した。
「・・・エンジンって、本当に壊したの?」
「いや? 止めるのは簡単じゃよ。排気口を塞げば勝手に掛からんようになるんじゃ。車見つけた時に、石詰めといてやったからの。お婆ちゃんの知恵袋じゃ、お前さんも覚えといたらええ」
(アンタのお婆ちゃんってそんなコトするんだ・・・)
取り敢えず、答えは返さないでおいた越前の肩を、幸村が後ろから叩いて注意を促した。
「さて、もう一頑張りしてもらうよ、越前君。最初に話していた通りに・・・出来るかい?」
「・・・アンタこそ、大丈夫なの?」
「ふふ・・・さぁね」
くす・・・と笑う幸村は、言葉とは裏腹に不安など微塵もない様子で真田へと振り向く。
「あと三人だ。どうやら警察は最後まで間に合わなかったね・・・仕方ない、始めようか」
「・・・・・・」
最後の仕上げを幸村達が画策している頃、あの部屋の中で遂に竜崎の意識が戻っていた。
何か、話し声がしているのに気付き、ゆっくりと目を開ける。
瞳に映ったのは、無機質で味気ないコンクリートの床と、薄汚れた壁だった。
縄で縛られ、動けない状態で壁を向く形で転がされていた少女は、起きてもしばらく何が起こっているのか判断出来なかった。
「全く・・・バイト先にブツ隠したのは良かったが、こんなお荷物まで抱えることになるたぁな」
「いいじゃねぇか、けっこー発育良さそうだし、始末する前にお楽しみって手もあるぜ? ま、全部終わるまでは念の為に人質してもらうけど・・・」
『人質』という言葉が桜乃の意識を一気に覚醒させ、それは同時に彼女の気を失う間際の記憶まで呼び起こした。
そうだ・・・私・・・って事は、私は今・・・誰かの人質に・・・!?
「・・・・・・っ!」
声を殺し、ゆっくりと首を動かして逆の方を見ると、三人の若い男達が思い思いの格好で狭く薄暗い部屋の中でたむろしている。
声を掛けようか・・・とも思ったが、何となくそれは却って自分への注意を引きつける事にもなると思い、桜乃はぎゅ、と再び目を閉じ、気を失った振りを続けた。
(助けて・・・・・・恐い・・・・・・!!)
本当は叫びたかった・・・
身体が震えそうになるのを必死に堪えて、桜乃は泣き出したい気持ちも抑えつける。
ただ、唯一自由な心の中で何度も助けを呼んだ。
(助けて・・・リョーマ君!!)
「・・・ん?」
部屋に残っていた三人が、次なる異変に気付いた切っ掛けは、そんな桜乃ではなく『匂い』と『視界』だった。
「何か・・・変なニオイがしないか?」
「ああ・・・・・・それに何となく、煙ってるような・・・」
その感覚は、誤りではなかった。
「・・・・っ! オイ! あれっ」
一人が、扉の隙間を見てひきつった声を上げて指差した先には、隙間から清流の様に流れ込む白煙と輝く光があった。
『火事だっ!!』
「なにぃ!?」
外から聞こえる叫び声に、部屋の中の三人は当然慌てた。
何しろ今いる場所はほぼ密閉された空間で、窓も脱出のための通路には小さすぎて役立たない。
しかも倉庫の一番奥に配置された場所であり、下手に逃げ遅れたら・・・
『火事だーっ!! 早く逃げろ!!』
外から聞こえる仲間のものと思しき切羽詰った叫び声も、男達の焦燥感と危機感を十分に煽り、考える余裕さえ奪った。
「早く! 早く開けろっ!」
「待てって・・・よし、開いた!!」
それこそが謀略だと気付きもせず扉に近かった男達が慌てて鍵を開け、がちゃりと重い扉を開くと、確かに白い煙が立ち昇っていた。
しかし何故か火事特有の炎や熱の類は一切無く、それらの代わりと言うかのように、煙の中、扉の前に一人の若者が微笑んで立っていた。
「どうも」
「え?」
律儀に礼を述べた若者の両脇から、隠れていた仲間達が一斉に部屋の中へとなだれ込み、扉の間際にいた二人の悪党に飛び掛かる。
特にブラジル人とのハーフである若者の動きは極めて俊敏で、黒い獣の様に一人の男を床へと押し倒すとそのまま上へ乗り上がり、頚部を圧迫して速効で落とした。
もう一方の男も同じく別の若者に押し倒され、両肩を相手の膝で押さえつけられながら頭を掴まれたが、何より彼が恐怖したのは、こちらを睨みつけてくる若者の血の様に紅い瞳だった。
「悪党がっ!!」
「壊れてみる?」
ジャッカルと切原がそれぞれの相手を威嚇している間に、最後に残った男は当然、部屋の中に閉じ込められる形になってしまった。
相手も二人だけなら強行突破もありだったが、出口中央に悠然と立っている若者が壁になっていたのだ。
押しのけ、傷つけてでも出ていたら、逃れられたのか?
いや、それもおそらくは不可能だった。
「・・・こんな火の気も燃える物も無い場所で、そう都合よく火事などないでしょう」
「こっちも期待はしてたけどさぁ・・・マジでバカなのなー。お気の毒な人生だよぃ」
更に扉の両脇から、隠れていた柳生と丸井が顔を出す。
辺りから集めてきた生木や枯れ木、ゴミに発炎筒で火をつけ、その煙にも手伝ってもらった偽りの火事を作り上げた男達も控えていたのだから。
多勢に無勢・・・卑怯な形に見えるかもしれないが、元々向こうはいたいけな少女さえ傷つけさらうという凶悪集団であり、そんな奴らに礼儀を通すつもりは毛頭無かった。
「皆さんっ!?」
初めて、桜乃が声を上げた。
嬉しかったのに、身体はまだ恐怖に震え、勝手に涙が流れてしまう。
彼女の姿を確認して幸村達は安堵の表情を浮かべたが、それはまた新たな危機の始まりだった。
「動くんじゃねぇ!!」
「っ!?」
縛られた桜乃を無理やり立たせ、最後の一人が壁際まで下がると隠していたナイフを桜乃へ突きつける。
人質を盾にした格好で、男は幸村達を威嚇する様に睨んだ。
「近づくな・・・!」
「やめておいたら? 下手に罪状増えたら後が面倒だよ」
言いながら、幸村は物珍しそうに発炎筒を右手に握った。
「うるっせえ!!」
怒鳴る男の手が激しく動いて、それが桜乃の目前で振られる。
「竜崎・・・っ!!」
仲間を取り押さえていた切原は怒りにぎらぎらとした目を向け、獣が構える様な姿勢で威嚇したが、幸村は少しだけ眉をひそめたもののその場から動こうとはしない。
壁際に立つ若い男は、じり、と間合いを保ちながら、桜乃の首を締め上げつつ己の盾にする。
少女の白い喉にナイフを突きつけられては、流石に立海のメンバー達も下手な動きは出来なかった。
「・・・っ!!」
顔に触れるほどに近い刃を目にして、桜乃は怯えながらも必死に声を耐えた。
出したくても出せなかったのかもしれないが、とにかく、犯人を刺激するような真似をして幸村達の邪魔をしてはならないという気持ちがそうさせていた。
「・・・大丈夫だよ、竜崎さん。もうすぐ警察も来るから」
「なんっなんだよお前らはぁ!!」
無情に自分を絶望に突き落とす様なことを、少女に優しく語り掛けている少年に、年上の犯人は殆ど半狂乱になって叫んだ。
脂ぎった顔に浮かべる表情も、仕草も、何もかもが見苦しく、腹立たしい。
「ただの中学生だよ」
「嘘付けっ!!」
「本当だってば」
にっこり笑った幸村が一歩を踏み出し、それに対して更に男は一歩下がる・・・が、もう背中に壁が密着するところまで来てしまった。
肩の辺りに窓枠が当たり、違和感がする。
小さな窓は丁度自分の頭の高さにあり、後ろから差し込む光が目の前の侵入者達を遠慮がちに照らしていた。
「・・・・・・」
幸村は一歩・・・一歩・・・とゆっくりと部屋の中に入って、中央に置かれていたあの鞄の中を覗き込み、その荷物の一つを左手で取り上げる。
白い錠剤が入った、ビニル袋・・・仁王が朋香から受け取った物と同一だった。
「・・・こんな物の為に、竜崎さんをさらったの・・・?」
こんな下らない物の為に・・・?
ふつふつと沸き上がる怒りを穏やかな言葉の奥に封じ込めて、幸村は異様に冷えた瞳を相手に向ける。
怒るほどに冷めてゆく、非情の瞳。
「許さないよ」
ぞわりと背筋を走る、悪寒。
耐え切れず、認めることも出来ず、男は刃を頼りに怒鳴った。
「るっせぇ!! いい加減にそこをどきやがれ!!」
「いいよ・・・そこに『的』を立たせる俺の役目はもう済んだ」
「・・・?」
あっさりと言い放った幸村は、その言葉と同時に右手を軽く上げた。
それが・・・合図だった。
「行くぞ越前。続けよ」
「分かってる」
幸村達が扉へと向かっていた時、真田と越前は二人だけ倉庫の裏に回りこみ、ラケットとテニスボールを手に中の様子を伺っていた。
気付かれないように物影に潜み、騒ぎが起こった段階で今いる場所に移動したのだが、ここからだと、窓を通じて中の様子は窺い知ることは出来ない。
しかし。
窓に背を向けている見覚えの無い人物の後姿だけは分かった。
それさえ分かれば十分だった・・・的が分かれば、それでいい。
そして合図・・・幸村の腕に握られていた発炎筒の輝く光が掲げられる。
「フン・・・この不届き者がぁっ!!」
帽子の下で、真田が目を爛々と光らせ、渾身の力を込めて窓に向けてスマッシュを打った。
続いて、越前もまた黄色い弾丸を勢い良く打ち込む。
「っけえぇぇっ!!」
二人の球はほぼ前後に並び、抜群のコントロールで真っ直ぐに窓へと向かっていく。
まず最初に真田のボールが窓を直撃し、薄汚れたガラスを粉々に打ち砕いた。
「な・・・っ!」
障害物を砕いたボールは減速して部屋の中へと落ちていったが、すぐ後に越前の一球が続く。
それは窓のあった空間を難なく素通りして、勢いを保ったまま振り向いた男の顔面を直撃した。
「ぎゃっ!!」
思わずナイフを取り落とした男の目の前に、幸村が迫る。
初めて、彼が自分から積極的に動いた瞬間だった。
「竜崎さんっ!」
「!」
彼の手が、桜乃を不埒な輩から引き離すと、そのまま強く握られる。
そして彼女の盾になりながら、幸村は痛烈な右ストレートを相手の顔面に叩き込んでいた。
越前の直球を受け、更に幸村の拳の一撃を受け、男の顔は無残に変形し、意識は手放されて無様に倒れた。
おそらく、幸村の最後の攻撃は予定には入っていなかったのだろう。
他の部員達が『あ〜あ』という表情で彼と倒れた犠牲者を眺めていたが、結局誰も何も言わなかった。
「竜崎、無事か!?」
「あ・・・み、なさん・・・」
大立ち回りを演じた立海の面々が彼女を囲んで気遣う中、幸村は割れた窓の向こうに見える、影の功労者達にぐっと親指を立てた。
『上手くいったよ』
その声無き台詞に、向こうの二人もラケットを肩に乗せながら薄い笑みを浮かべていた・・・
六人の男達を辺りにあった縄で縛り上げたところで、ようやく警察車両が到着となった。
渋滞がどれだけ続き、交通事故の処理がどれだけ長く掛かっていたのかは知らないが、本当に遅い。
しかし、それは立海にとっても口裏を合わせるには好都合ともいえた。
「軽いロードワークの後にここで練習していたら変な人達が来ていましてね。つい興味本位に眺めていたら、さらわれたという知己の顔が見えたので、間違いなく事件の関係者だろうと判断しまして・・・お騒がせして大変申し訳ない」
「・・・こんな所でテニスの練習?」
「人に当たる心配もないし、丁度いいかと思ったんです。ほら、ちゃんと全員ラケット持ってますし。嘘を言っても仕方ないかと・・・あ、無論これらを武器にしてもおりません。調べて頂いて結構です」
いけしゃあしゃあと、免罪符であるかの様に切り札のラケットを持ちながら・・・
立海の『紳士』を始めとする一軍は、六人全員を警察に引き渡しながら聴取を受けていた。
笑顔で。
警察も驚いただろう、着いたら既に犯人と思しき若者達が縛り上げられ、証拠品と一緒に奥の部屋に閉じ込められていたのだから。
しかもさらわれた少女は奇跡的に無傷で、犯人達を捕らえた学生達によって手厚く保護されていたのだ。
「向こうが知り合いの子を縛って脅してたんッス! 俺達ももう夢中で〜。ナイフとかも突きつけられてて、そりゃもう恐かったッスよ〜〜」
犯人を赤い目で散々恐怖させた二年生は、いまはもう落ち着いた瞳の色で大袈裟に向こうの悪党振りをアピールしていた。
「うーむ・・・」
何か引っかかるものを感じながら聴取をしていた初老の刑事と思しき男に、警察官が走り寄ってきた。
「すみません、あの少年がこれを・・・」
警察官が、銀髪の少年を指差しながら提出したのは数台の携帯電話だった。
「奴らが隠していたのを見つけたそうです。ロックはなく、中に取引先などの情報が・・・」
嘘である・・・正解は、「見つけた」のではなく、彼が相手方から全て「奪った」後に、ロックまで解除してしまったのだ。
「なにっ!? すぐに情報課へ回せ!」
「はいっ!!」
「あの、すみません」
貴重な情報を得て興奮している警察側に、幸村が遠慮がちに手を上げた。
「何かね?」
「俺達は引き続きここで聴取を受けます。何でも聞いて下さい、警察の方々への協力は惜しみません。ただ、彼女はすぐに病院へ連れて行ってあげてくれませんか? 身内の方も心配しておられると思いますので」
「幸村さん・・・」
見上げてくる少女に、幸村はにこ、と笑う。
「もう向こうに連絡はしているから」
そして、思い出した様に刑事に付け加えた。
「あ、一人、俺達から同伴者を付けたいんです・・・彼を」
立海の部長が指差したのは、立海のメンバーではなく、青学の一年ルーキーだった。
「え・・・?」
キョトンとする越前を指差した幸村は、刑事に穏やかな笑みを向けて首を傾げた。
「彼女と同じ学校の子なので、知り合いの方があの子も安心します。それに身内の方は、彼の所属する部活の顧問ですから。彼だけは聴取はそこでしてあげて下さい」
「そうかね・・・ふむ、分かった」
立海のメンバー達の(表向きの)従順さと、(竜崎にのみ向けられた)優しさは、警察関係の人間にも好意的に受け取られ、彼らの望むままに事は運んだ。
「念の為、救急車で病院へ搬送しよう。君達には引き続き、もう少しここで話を聞かせてもらいたいが、構わんかね?」
「勿論です」
立海テニス部の学生は非常に優秀で礼儀正しい、という認識を警察に確実に植え付けながら、幸村は越前と竜崎を救急車まで見送った。
「越前君、竜崎さんを宜しく。先生と青学のみんなにもよろしく伝えておいてくれ、結局、まともな挨拶は言えないままだったからね」
「・・・何で俺なんスか?」
疑問を投げかけると、立海の部長はにこっとこちらに笑顔を返した。
「あれ、忘れたの? 竜崎さんを一日借りる権利は、今日の最優秀功労者にあるんでしょ?」
「!」
「竜崎さんをあの犯人から助ける一撃を出したのは君だよ。文句なしの今日の一番の功労者だ。だから、今日は一日、君が竜崎さんの隣にいるんだよ」
「アンタ達だって・・・」
色々とやってたじゃない・・・と言おうとした越前の肩をぐっと強く掴み、幸村が覗き込むように笑いかけた・・・何故か、寒気を覚える様な笑みだったが。
「い・い・ね?」
「・・・分かったッス」
「それでいいんだ。さ、乗って乗って」
促すように、三年生の先輩が一年の二人を救急車へと押し込んだ時、解放された桜乃が深く彼に頭を下げた。
「幸村さん・・・あのっ・・・有難うございました」
「うん、君が無事で良かった。今度は青学と、景品無しでの勝負をしたいね。その時こそ手加減しないって伝えておいて」
ふふ、と笑いながら、幸村は二人が乗った救急車が走り去るのを見送った。
「・・・・・・」
「行ったか」
「ちぇっ、結局アイツがいいとこ取りかぁ・・・ま、いーけど」
他のメンバー達も色々言いながら去ってゆく車両を眺めていたが、意外と晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。
桜乃が無事だった・・・それで彼らは十分だった。
夜
「ああ、越前も軽い聴取だけで済んだ・・・事件が解決していたからな、儀礼的なものだ」
病院の片隅・・・携帯の使用が許されている待合室で、手塚が電話の向こうにいる相手に、渋い顔をしつつ報告を行っていた。
『ふふ・・・手塚、本当は彼の脱走に気付いていたね・・・見逃したんだろう?』
「・・・さぁな」
『まぁいいよ、それについては不問にしよう。俺達が手助けされたのは事実だし・・・竜崎さんは大丈夫?』
「今は病室にいる。念の為、一日だけの入院ということになった。本人は全く問題ない健康状態だ・・・危険を冒してまで助けてくれた事には、改めて礼を言う」
手塚の言葉に、向こうの若者は何のこと?と惚けてみせた。
『俺達は、あれからテニスの練習に別の場所に行っただけ。彼女を見つけたのも偶然さ。まさかわざわざ犯罪者の所に押しかけて暴れたなんて、天下の立海テニス部がやったなんてことになれば大事だからね。まぁ、軽い注意だけで済んだし、向こうの怪我も正当防衛でのものになった』
「・・・その様子だと、警察も納得したのだろうな。お前達の主張に」
手塚の言葉には僅かに呆れの色が滲んでいたが、向こうはくすくすと軽く笑うのみだった。
『・・・ところで、君の所のルーキーは、ちゃんと竜崎さんに付き添ってる?』
「? ああ、今も病室だ。アイツにしては珍しいが・・・まぁ勝手な行動を反省しているのなら構わん」
『俺達の動きを見越した上で、その勝手な行動を許可したのは君だろう、手塚・・・ふふ、まぁ、彼が約束を守ってくれているなら、それでいいよ』
「・・・約束?」
「え、と・・・リョーマ君・・・」
「何?」
ベッドに横になっている桜乃は、傍のソファーに座っていた越前に遠慮がちに話しかけた。
殆ど無傷で健康体な自分は、本来なら入院している必要も無いのだ。
なのに、彼はここに着いてからずっと、自分の傍に付き添ってくれている。
嬉しい気持ちは勿論あったが、何となく申し訳ない気持ちでもあった。
「もう随分暗くなったから・・・帰っていいよ。私、大丈夫だから」
「・・・面会時間はまだ残っているから、ここにいる」
「でも・・・ここにいても暇だし・・・」
「今日は、俺がアンタを借りてるんでしょ?」
「そ、れは・・・そうだけど・・・」
「・・・・・・」
でもやっぱり、と暗い顔をする桜乃に、越前は無言で彼女の手をぐっと握り締めた。
「っ!?」
「・・・言ったよ、俺」
「え・・・」
「何も期待してない、何もしないでいい、あんまり騒ぐなって・・・だから」
更に、ぐ、と力を込める。
「・・・ちょっと静かに、こうしていようよ。無理して話題探すことも期待してない・・・こうしているだけで、いいからさ」
「・・・・・・う、うん」
桜乃が赤くなって頷いたのに満足したのか、越前はそのまま手を離さなかった。
いつもの仏頂面・・・ではなく、微かに笑みを称えて。
(リョーマ君・・・)
少しだけ・・・少しだけ距離が近くなったって思ってもいいのかなぁ・・・?
(今は、静かに・・・・・・二人でこうしてようね・・・)
心があったかくなるのを感じながら、桜乃もまた微笑んでいた。
翌日の朝刊には、やはり、立海の面々と越前リョーマの武勇伝が写真付きで掲載されていた。
昨今の若者を蝕む合成麻薬の取引現場に居合わせたテニス部員が、人質の少女を助けて犯人達を捕らえた大偉業は当然好意的な言葉のみで語られ、立海だけに留まらず社会的にも広く認知されることとなった。
「まぁ、妥当な評価じゃな」
ふんふんと頷きながらそれを部室で読んでいた仁王の隣では、柳生が眼鏡を押し上げながら満足そうに微笑んでいる。
「家族に無茶をするなと叱られはしましたが・・・やはり人助けは良いものですね」
(助けたばかりじゃないがのう・・・)
犯人の方は容赦なく叩きのめしたのだが、まぁ自業自得ということにしておこう・・・過剰防衛という言葉はこの際忘れたことにして。
「俺は写真写り良かったから満足ッス」
「やっすいな、お前・・・」
「ウチ、これ切り取って額縁に入れるって言ってたぜぃ」
「誇られるのなら、構わないと思うが・・・」
「ふん、この程度の輩に俺達が遅れを取る訳がない。全く、最近の犯罪者もたるんどるぞ」
皆が口々にそう述べた中、部長の幸村はいつもと同じ朗らかな笑顔を浮かべている。
「ふふ・・・けど終わりよければ全て良しってね・・・大きな怪我をした人もいなかったし」
『幸村部長に殴られたあの人は・・・?』
『あの一年のボールと合わせて、全治二ヶ月の重傷、左の歯と顎はほぼ全滅だったってよ』
こそこそと囁く切原とジャッカルを他所に、彼は新聞を眺めながら笑って言った。
「これだけ社会的に評価が高いと、きっと次の予算も期待出来るね。警察署に表彰で呼ばれる予定もあるみたいだし・・・生徒会にもアピールしておこう」
「当然だな」
「既に手は打ってある」
計算高い立海の代表三人に、他の部員は最早感動すら覚えてしまう。
更に、
「竜崎さんをあの一年に任せたんだから、このくらいの見返りは当然だよね」
そんな幸村の一言に、全員、納得・・・
(あー、やっぱり少しはムカついてたんだ・・・)
きっと、今頃は青学の方でもこの新聞なり伝聞でそれなりに大騒ぎをしているのだろう。
けどまぁあの子を助けて無傷で戻したのだ、確かにこのぐらいは御礼として受け取ってもばちは当たるまい。
「あの日の試合は無効になってしまったけど、また改めて再戦を申し込まれるかもしれないね・・・まぁ、非利き手の練習ぐらいはしておこうか、それと、その時には・・・」
朗らかに語っていた幸村が、一言、どうしても笑顔ではなく真顔で言いたかった台詞、それは・・・
「もう絶っっっ対に竜崎さんは、景品にはさせないっ!!」
『当っ然っ!!!!!』
二度とごめんだこんなコト!!
返す立海メンバー達の言葉も見事に一致団結した、ある晴れた朝のことだった・・・・・・
中編へ 了